2019.07.29 逆転の発想!? 太宰治の故郷・金木町を走る津軽鉄道「真夏のストーブ列車」
突然ですが皆さん、ストーブ列車というものをご存知でしょうか。今の鉄道ではなかなか見かけませんが、現在でも津軽鉄道が動態保存を行っています。しかし、走れるのは冬のみ……それでは立佞武多を見に来た方に申し訳ない。だから夏に走らせようという逆転の発想が、今回のスタートです。
本日は、太宰治の出身地「金木町」を走る、空前絶後の非常識企画「真夏のストーブ列車」をお送りします!
津軽鉄道とは
津軽鉄道は、五所川原市に本社を置く、青森県の私鉄です。太宰治の出身地・金木町を通る唯一の鉄道でもあり、夏・冬ともに多くの観光客でにぎわいます。12月から3月まではストーブ列車が運行されるのですが、五所川原立佞武多の時期のみ「真夏のストーブ列車」として登場します。今回は立佞武多に合わせて行ってみました!
「走れメロス号」に乗って太宰治の故郷へ
まずは今回の起点、五所川原駅へ。青森駅・新青森駅から2回乗り換えるため、相応に時間がかかります。出発はお早めに。
JRを出てすぐ横に、津軽鉄道の駅はあります。こじんまりとした作りですね。
こちらは本社の様子。すぐ近くにあります。
駅の切符売り場には、既に絶滅危惧種となった昔ながらの時刻表が。1日14本は地方線としてはマシな部類です。充分実用範囲でしょう。
電車は1両編成。太宰治の故郷だけに「走れメロス号」という名前です。
太宰の小説で電車向きなタイトルって少ない気もしますが、良くマッチしています。「斜陽号」とか「人間失格号」とか付けられなくて良かった……と思っていたら、本当に付いたようです。はっちゃけすぎ!
途中、車内で五所川原農林高校の生徒さんがやきとり風の「立佞武多焼き」を販売していました。おからこんにゃくを使った鳥皮風の食感で、「やきとり屋で出しても通用するんじゃ……」と思わせてくれるクオリティ。五農の生徒さん、ありがとう。
五所川原から23分乗って、金木駅へ。ここから太宰の生家までは徒歩で向かいます。
途中、太宰治疎開の家「津島家新座敷」を通ります。
ここは津島家の離れで、1945年から1年ほど太宰治が滞在した住宅です。多くの作品もここで書かれています。
さらに歩くと、塀に囲まれた大きな屋敷が見えます。ここが太宰治の生家「斜陽館」です。間近で見ると、小説の一節が思い出されます。
”父は、ひどく大きい家を建てた。風情も何も無い、ただ大きいのである。間数が三十ちかくもあるであろう。それも十畳二十畳という部屋が多い。おそろしく頑丈なつくりの家ではあるが、しかし、何の趣きも無い。”
太宰治「苦悩の年鑑」 文章は青空文庫より抜粋
角度を変えて撮ると、小さなお城のように見えますね。小説の通り部屋数が多いので、一時期旅館として使われたこともあるそうです。立派な庭もありますので、気になる方はぜひ。
また、斜陽館の近くには津軽三味線会館もあります。文献でたどることが難しい津軽三味線の歴史が展示されていて、館内では実演もあります。
今でこそ知名度の高い津軽三味線ですが発祥は幕末~明治と浅く、しかも本当の意味での大衆芸能だったため、資料が少ないそうです。ここまで知られるようになったのは、大勢の方の努力があったのだろうか……と、津軽海峡の冬を思わせる調べを聞きながら、紆余曲折に思いを馳せてみました。
この後は来た道を戻って駅へ。徒歩で一周できるくらいの小さな町ですが、また寄ってみたいですね。
非常識だから印象に残る。8月に体感する「真夏のストーブ列車」
さて、金木駅まで戻ってきたところで、見たこともない列車に行列ができていました。これが季節外れの「真夏のストーブ列車」。話のタネに早速乗り込みます。料金は通常運賃+400円です。
2019年の運行はこちら
金木駅にて。平仮名で書かれた「のりば」の破壊力。パワーがみなぎっています。
こちらは駅名標。相田みつお風のタイポグラフィが目を引きます。ここまで来るとアートの域ですね。
全員乗り込んだところで出発。写真から漂う、半袖とストーブのミスマッチ感。運行中の車内気温は45度を超えるため、皆さん窓を開けてヒーヒーしながら乗っています。
実際に使われているダルマストーブ。すぐ横にある温度計は振り切れていました。推定50度以上。狂気の沙汰という言葉が似合いますが、アイスの差し入れがあったりします。これが結構おいしい。
窓を開けて、津軽の夏景色を楽しみます。車内が灼熱な分、風が涼しいですね。
そして、運転中には津軽三味線の演奏も。顔はお見せできませんが、汗一つかくことなく、達人の技を披露していました。
ようやく暑さから解放され、五所川原駅へ。日も傾いてきて、祭りの準備が進んでいます。
常識破壊の「真夏のストーブ列車」いかがだったでしょうか。立佞武多の時期にしか乗れない珍しさもさることながら、道中の温かい心遣いがうれしいですね。興味を持った方は、ヒーヒー言いながら夏を体感してみるのも、いい思い出になりそうです。
次回は高さ高さ20m超のねぷたが町を練り歩く、日本屈指の祭り「五所川原立佞武多」をご紹介します!